第13回受賞者(2018年度)

水口 佳一 氏(首都大学東京理学研究科)
「層状カルコゲナイド超伝導体の開発と機構解明に関する研究」 
川崎 猛史 氏(名古屋大学理学研究科)
「過冷却液体の構造とダイナミクスに関する理論的研究」

第13回受賞者は実験部門で水口佳一氏(首都大学東京理学研究科)が、理論部門で川崎猛史氏(名古屋大学理学研究科)が選考されました。表彰式は2018年11月30日に奈良先端科学技術大学院大学で行われ、永長直人同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

物質科学の魅力の一つは新物質の発見にあります。高温超伝導を示す銅酸化物と鉄砒化物の発見はその最たる例といえるでしょう。これらの高温超伝導体は伝導を担う銅-酸素層および鉄-砒素層が他の物質層(ブロック層)と交互に積層した構造を形成しており、超伝導を含む豊かな物理現象が提供されました。

水口佳一氏は、ビスマスと硫黄の層をもつ臨界温度Tcが6 Kの新超伝導体を発見しました。次いで、層間に別の層を挟むことでTcを10.6 Kまで引き上げました。これらの発見により、層状ビスマス硫化物が新たな超伝導物質群となることがわかり、その後の世界中での活発な研究が行われ、多様なブロック層からなる新物質が開発されました。d電子をもたないビスマスが超伝導の主役になったことで既存の遷移金属にはない新たな展開が見られています。同氏は、ビスマスの6s電子の影響を精密な構造解析により明らかにし、混沌としていた超伝導相の合成条件に決着をつけました。

これらの水口氏の研究成果は物質の持つ可能性について今までにない視点を提示するものであり、凝縮系科学賞に相応しい業績です。

非平衡ソフトマター物理学は、化学・生物学との境界領域にある凝縮系物理学の一大分野であり、身の周りにあるあらゆるものが研究対象といっても過言ではありません。そこでは、過冷却液体あるいは過圧縮液体において観測されるガラス転移や結晶化など広い意味での相転移現象や、それらと流動に関する外場応答との関係などが中心的な課題ですが、非平衡性や非線形性のために解析が難しい問題とされてきました。

川崎氏は、これらの諸問題に対し非平衡性や非線形性を直接的に扱うことの出来る分子動力学法を始めとする大規模な数値計算を駆使し、過冷却液体における局所構造を発見し結晶核生成過程における前駆体の存在を明らかにしました。これらの研究は、均一であることを前提としてきたガラス転移現象に対する従来からの考え方や古典核生成理論を一新するものです。さらに、単純液体において普遍法則として知られているStokes-Einstein則が過冷却液体では破れるという異常輸送現象について、空間不均一な粒子の構造緩和の階層性に注目することにより、その物理的起源の解明をおこないました。

これらの成果は、非平衡ソフトマター物理学における金字塔であり、凝縮系科学賞に相応しい業績です。