第9回受賞者(2014年度)

松石 聡 氏(東京工業大学元素戦略研究センター)
「機能性エレクトライド・ハイドライドの創出」
水島 健 氏(大阪大学基礎工学研究科)
「トポロジカル超流動・超伝導の理論的研究」

第9回受賞者は、実験部門で松石聡氏(東京工業大学元素戦略研究センター)、理論部門で水島健氏(大阪大学基礎工学研究科)が選考されました。授賞式は2014年11月21日、大阪大学豊中キャンパス基礎工国際棟で開催され、北岡良雄同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

松石聡氏の受賞理由は「機能性エレクトライド・ハイドライドの創出」です。新しい物質の開発が物質科学の鍵を握っていると言っても過言ではありません。物質科学の様々な分野でその発展を支えてきた酸化物系固体の物質開発においては、カチオンである金属イオンを置換するという方法が広く用いられてきました。松石氏は、酸素の置換アニオン種として、電子そのもの(電子化物)および最も単純な元素である水素のアニオンに注目し、機能性酸化物エレクトライドおよびハイドライドの開発に新しい道を切り拓きました。氏は、籠状構造を有するセメント鉱物において、籠の中に緩く束縛されている酸素イオンを化学的手法で電子に置換し、籠の中に電子が漂う物質(エレクトライド)を実現させました。この物質は、常温大気雰囲気下で高い安定性と高い電気伝導性を有し、その後に超伝導の発現が明らかにされ、物質科学に大きな衝撃を与えました。さらに、鉄系ニクタイド系超伝導体の研究において、酸素イオンの一部を水素アニオンで置換できることを示し、フッ素イオン置換では15%に留まっていた電子ドープ濃度を50 %まで可能にしました。その結果、2つの“超伝導ドーム”の存在とそれに伴う新たな反強磁性相の発見等、超伝導研究に新たな展開をもたらしました。以上のように、松石聡氏は、電子と水素をアニオンとして活用することにより、新しい機能性酸化物を開発し、物質科学の発展に大きく貢献したことは、凝縮系科学賞に値する優れた研究業績です。

水島健氏の受賞理由は「トポロジカル超流動・超伝導の理論的研究」です。超流動3HeB相は、「時間反転不変性」と「粒子・ホール対称性」によって保護されたトポロジカル超流動(DIIIと呼ばれるクラスに分類)です。時間反転対称性は磁場印加により容易に破壊されるので、これまでは、トポロジカル超流動性は消失すると考えられてきました。水島氏は、印加磁場の下でも「時間反転操作」と「スピン・軌道空間の反転(180度回転)操作」からなる「隠れた離散操作(Z2)不変性」に保護されたトポロジカル超流動状態が可能であることを発見しました。さらに、磁場効果と磁気双極子間相互作用の競合効果により、非自明なトポロジカル相と非トポロジカル相との間に予期せぬ相転移が存在すること、そして、そのような相転移はNMRを用いた実験により観測可能であることを予言しました。この成果は、トポロジカル量子相の物理に新しい風を吹き込み、今後の研究の1つの方向性を示すものであるとともに、トポロジカル超伝導の研究にも影響を与えるものであり、凝縮系科学賞に値する優れた研究業績です。