第5回受賞者(2010年度)

木須 孝幸 氏(大阪大学基礎工学科)
「超高分解能光電子分光法の開発」
小林 未知数 氏(東京大学総合文化研究科)
「量子乱流に関する理論的研究」

第5回受賞者は実験部門で木須孝幸氏(大阪大学基礎工学科)、理論部門で小林未知数氏(東京大学総合文化研究科)が選考されました。表彰式は2010年11月13日に東京大学武田ホールで行われ、北岡良雄同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

木須氏は、光電子分光法の超高分解能化を可能にする実験技術の開発を推し進めて来ました。光電子分光法は、物質の電子状態を明らかにできる有力な方法であり、その分解能の向上はそのまま電子状態の詳細な理解、ひいては背後に潜む物理の解明につながるものです。このために、光源としてレーザー光の高次高調波を用いるとともにアナライザーの開発から取り組み、分解能の記録を次々と塗り替えました。また、高分解能を活用するための低温化にも挑戦し、エネルギー分解能0.15 meV、到達温度1.8 Kを達成するに至っています。これらの実験技術の開発によって、光電子分光では従来不可能と思われていた電子物性研究が可能であることを示し、物性科学のフロンティアを切り拓いたものであり、凝縮系科学賞に値する研究業績です。

小林氏は、量子流体力学とりわけ量子乱流の研究を進め、巨視的波動関数が従うグロス・ピタエフスキー方程式の数値解析により、古典乱流の最も重要な統計則であるコルモゴロフ則が超流動乱流においても成り立つことを示しました。超流動乱流では量子渦は安定な位相欠陥であるため構成要素が明確であり、かつ粘性による通常の散逸が存在しません。このことにより、乱流状態での渦のカスケード過程がコルモゴロフ則成立にとって本質的であることを曖昧さなく示せた点が画期的です。乱流はレオナルド・ダ・ヴィンチ以来、理学・工学を通して自然界の最大の難問の一つですが、その理解へ向けての大きな進歩と見なせます。また、この研究は種々の原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体の量子渦の振る舞いを解明する研究へと発展しており、凝縮系科学賞に値する研究業績と評価されます。