第2回受賞者(2007年度)

青木 大 (フランス・グルノーブル、フランス原子力庁)
「ウラン・超ウラン元素を含む重い電子系新超伝導体の発見」
妹尾 仁嗣 氏(日本原子力研究開発機構)
「有機導体における電荷秩序の理論的研究」

第2回受賞者は実験部門で青木大氏(フランス・グルノーブル、フランス原子力庁)、理論部門で妹尾仁嗣氏(日本原子力研究開発機構)が選考されました。表彰式は2008年1月5日に名古屋大学野依記念学術交流館で行われ、福山秀敏同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

青木氏は「ウラン・超ウラン元素を含む重い電子系新超伝導体の発見」に対して同賞が授与されました。一般的に5f電子は、局在的な4f電子と遍歴的な3d電子の中間的な性質を持ち、5f電子が磁性を担うウラン化合物は、重い電子状態、異方的超伝導、磁気・四極子秩序など多彩な物性を示します。なかでも強相関電子系と呼ばれる重い電子系が示す超伝導状態は、通常の金属とは異なりクーパー対が異方的であってそれゆえに多彩な性質を示し、この四半世紀にわたり活発な研究がなされてきました。この分野では新しい超伝導体を発見することが第一義的に重要であり、従来の経験は「新しい物質は新しい概念を内包する」ことを示しています。青木大氏はウラン元素を含むURhGeの純良化に成功し、常圧下低温で強磁性と超伝導が共存することを発見しました。これは加圧下の強磁性状態で超伝導が発現するUGe2との関連を解明する上でも重要な発見です。さらに、ごく最近、超ウラン元素であるネプチニウムを含むNpPd5Al2が超伝導ギャップがポイントノードをもつ強結合異方的超伝導体であることを発見しました。その後の研究によって、この物質は強相関と弱相関の中間にあることが示唆されていること、また上部臨界磁場近傍で量子臨界点が誘起されることなども含めて、強相関電子系超伝導の研究展開の中で重要な位置を占めることを予感させます。氏は、これら以外にも、幾多の純良単結晶の育成、ドハース・ファンアルフェン効果によるフェルミ面の確定を通じて重い電子関連の研究の推進に多大の貢献をしています。

妹尾氏は「有機導体における電荷秩序の理論的研究」に対して同賞が授与されました。有機伝導物質は、電子状態の低次元性、電子間クーロン相互作用、電子格子相互作用の競合により、多彩な電子相を示します。最初の有機超伝導体としてよく知られる擬一次元電子系(TMTTF)2X、(TMTSF)2Xも、超伝導相に加え、金属相、様々な磁性をもつ絶縁相が圧力制御やアニオンXの置換で現れます。これらの多様な電子相の統一的な理解は物性物理学の大きな課題でした。妹尾仁嗣氏は、物質に即した有効モデルの理論研究により、この系における絶縁相が電荷秩序に起因することを予言し、実験による検証を経て、電子間長距離クーロン相互作用が現実の物質に決定的な影響を及ぼすという描像を築きました。さらにこの研究の発展として、擬2次元有機伝導体(BEDT-TTF)2Xの電荷秩序についても重要な理論的示唆を与え、多くの実験研究を刺激すると共に、三角格子における電荷秩序とフラストレーションの研究へと新しい研究領域の発展を促しました。妹尾氏によるこれら一連の研究は、分子性物質の電荷秩序研究の源流と言うべき極めて影響力の大きなものと評価されます。