第12回受賞者(2017年度)

須田 理行 氏(分子科学研究所)
「分子の光異性化反応を用いたモット絶縁体-超伝導体の相制御」 
渡辺 悠樹 氏(東京大学工学系研究科)
「空間群を用いたバンド構造のトポロジーの研究」

第12回受賞者は実験部門で須田理行氏(分子科学研究所)が、理論部門で渡辺悠樹氏(東京大学工学系研究科)が選考されました。表彰式は2017年12月9日に東京大学柏キャンパス物性研究所で行われ、永長直人同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

強相関電子系は、電子間の強い相互作用に起因して様々な興味深い電子相を示します。それらが同一物質において競合することから、外場による相制御が近年の凝縮系科学における重要な課題となっています。

須田理行氏は、強相関分子性導体に発現する三つの相(モット絶縁体、金属、超伝導体)を、歪効果、光照射、電界効果を用いて可逆的に制御することに成功しました。特に、光を用いた研究では、擬2次元分子性物質表面に接合させたスピロピラン単分子膜の巨大双極子生成を伴う光異性化反応を用いて、分子性物質にキャリアをドープし、モット絶縁体から超伝導体を生成することに成功しました。スピロピラン誘導体を選ぶことで、正孔と電子を選択的にドープし、紫外光/可視光の照射によりドーピングのオン/オフすなわち超伝導体/モット絶縁体を可逆的に変換できることも示しました。

これらの成果は、物質科学に大きなインパクトを与えるとともに、今後、強相関電子系の新しい光制御法として大いに注目されており、凝縮系科学賞に相応しい業績です。

トポロジカル(結晶)絶縁体やトポロジカル半金属など,トポロジーで保護された特徴的な電子状態をもつ物質が近年注目を集め,新物質の探索が盛んに行われています。では物質の結晶構造と化学組成が与えられたとき,その電子状態やトポロジカル物質としての可能性について,実験も数値計算もせずにどこまで解析的に予測できるでしょうか。

渡辺氏は結晶のもつ空間群の対称性に着目し,群の表現論に基づいて系統的な解析を行う手法を開拓しました。またその手法を230個のすべての空間群に適用し,各空間群に対して,絶縁体を実現し得る占有バンド数に対する条件の洗い出しと,トポロジカルなバンド構造の分類に成功しました。さらには相互作用する電子系に対しても,空間群の対称性を考慮することで,バンド絶縁体と同等な状態が可能であるための電子数に対する条件を見出し、逆にそれが満たされていない場合を探すことでトポロジカルに非自明な量子状態を探索するという指針を与えました。

渡辺氏の成果は,非自明な電子状態が実現するための強い制約条件を与えるもので,結晶中の電子状態に対する理解を深めるだけでなく,今後のトポロジカル物質の探索にも有用な,凝縮系科学賞に相応しい業績です。