第11回受賞者(2016年度)

前田 和彦 氏(東京工業大学工学系研究科)
「可視光水分解を実現する新たな光触媒系の開発」

第11回受賞者は実験部門で前田和彦氏(東京工業大学工学系研究科)が選考されました。今回は、理論部門は該当者なしとして受賞は見送られました。表彰式は2016年12月9日に神戸大学六甲台第2キャンパス神戸大学百年記念館で行われ、永長直人同賞選考委員長から賞状その他が贈られました。

太陽光を使って化学反応を駆動する光合成を人工的に実現することは、エネルギー・環境問題解決の切り札の一つです。水中のTiO2が紫外光を吸収して水を水素と酸素に分解すること(本多・藤嶋効果、光触媒)は半世紀前に発見されましたが、これでは太陽光エネルギーの大部分を占める可視光が未利用なため、バンドギャップのより小さい半導体の探索が活発に行われて来ました。

前田氏は、どちらもワイドバンドギャップ半導体であるGaNとZnOが固溶したときにバンドギャップが小さくなることを予測し、これを用いて紫外から波長500 nm程度までの可視光によっても水が化学量論比で水素と酸素に分解できることを初めて示しました。一方、光吸収によって生成した電子と正孔が半導体中に一様に存在すると逆反応が起き易く、効率が著しく阻害されます。これを防ぐために水素生成を選択的に行う活性点(「助触媒」)を系に付与するのですが、前田氏はこの助触媒にも複合金属成分を使うという新しい発想を持ち込み、量子収率を飛躍的に高めました。これらの研究は、CO2からCOやギ酸の生成といった、人工光合成と呼ぶにより相応しい研究に展開しています。

これらの成果は、エネルギー・環境問題への応用という社会的波及効果はもちろん、明確な電子論的視点から光電気化学に取り組むことの有効性を実践的に示したもので、凝縮系科学賞に相応しい業績です。